劉震雲(著)、水野衛子(訳)『わたしは潘金蓮じゃない』 中国関連の本(日) 2018年01月12日 0 『わたしは潘金蓮じゃない 』は劉震雲の長編小説。水野衛子翻訳。 主人公は李雪蓮。彼女は農村の婦人です。トラック運転手と結婚しています。二人目の子供を妊娠した時、一人っ子政策の罰を避けるため偽装離婚をします。子供が生まれた後、また再婚するつもりでした。しかし、偽装のつもりだったにも関わらず、夫は別の女性と結婚してしまいます。李雪蓮は怒り、裁判所な役所など様々な場所に訴えに行きますが、適当に扱われます。さらに怒った李雪蓮は北京に陳情に行くことにします... 映画にもなったので気になっていました。ようやく読むことが出来て良かったです。 紹介には、「中国きってのユーモア作家が描く現代中国の素顔!」とあり、ユーモアという言葉の意味を最初掴みかねていたのですが、読んでみて分かりました。風刺、ブラックユーモアという意味合いが強いかも知れません。 小説は基本的に軽快であり、読みやすいです。 PR
水谷尚子『「反日」以前 中国対日工作者たちの回想』 中国関連の本(日) 2017年12月21日 0 『「反日」以前 中国対日工作者たちの回想』は水谷尚子が聞き取りをもとにして、さまざまな中国人の体験をまとめたもの。 貴重な証言が数多く含まれています。とても勉強になりました。ただ、個人的には日中で意味の異なる「工作者」という言葉をわざわざタイトルに採用する点(編集者がつけたのかも知れませんが)、現在日本との交渉にあたっている中国人政府関係者に対して辛辣な点など著者の態度には疑問点は覚えました。 原清子は、延安で数少ない日本人女性としてラジオ放送に携わった人物。 趙安博は、日本留学経験があり、延安では日本人捕虜の教育にあたりました。そして、戦後日本との折衝の最前線で活躍した人物でもあります。 黄乃は日本でエスペラント普及に関わり、帰国後は延安で野坂参三を支え、また『敵情』の編集長もつとめました。戦後は失明しますが、中国語の点字を改良して失明した人たちのために尽力しました。 康大川は『人民中国』日本語版の実質的な立案者であり、編集長。台湾出身、日本で学び、流暢な日本語を用いたそうです。 第1章 生きていた「延安ローズ」原清子 第2章 趙安博回想録 対日工作現場の第一線にいた人物が語る日中関係史の一断面 第3章 黄乃回想録 辛亥革命の英雄・黄興遺腹子の抗日戦争 第4章 康大川回想録 中国の日本語雑誌『人民中国』初代編集長の生涯
譚璐美『帝都東京を中国革命で歩く』 中国関連の本(日) 2017年12月19日 0 『帝都東京を中国革命で歩く』は、譚璐美が戦前日本に留学してきた中国人留学生の逸話を日本の土地とからめながら紹介していくもの。白水社。 学術書よりはくだけた感じなので、革命に従事した中国人の青年たちの姿が浮かび上がるようで興味深いです。秀才で損な立ち回りなために影の薄い宋教仁、無鉄砲で飛び出していき、勉強はあまりできない蔣介石、非常に優秀な勉強家・李漢俊、西郷を思わせる豪傑・黄興などなど。 「日華学会」が中国人留学生の受入れに関して大きな役割を果たしていたという逸話など全く知らなかったので面白かったです。 神保町は今でも古本街として有名ですが、当時からそれが全く変わらないということも改めて確認しました。 [目次] はじめに Ⅰ 早稲田 第一章 黄龍旗がはためく街——清国チャイナタウン 第二章 頭をふるって顧みず、われは東へ行かん——梁啓超の悲しみ 第三章 知られざる天才——憲政の祖・宋教仁 第四章 戸山の軍人学校——蔣介石の夢と憧れ 第五章 芥川龍之介より日本語がうまい帝大生——社会主義者・李漢俊 Ⅱ 本郷 第六章 清国人最初の日本語学校——弘文学院 第七章 中国の西郷隆盛——黄興の暮らしぶり 第八章 朝顔の咲く家——魯迅の思い出 第九章 関東大震災(一)——日華学会のなりたちと留学生支援 第十章 関東大震災(二)——本郷、麟祥院に今も眠る留学生たち Ⅲ 神田 第十一章 慈愛の宰相——周恩来の目立たない日々 第十二章 最大規模の日本語学校——東亜高等予備学校 第十三章 留学生の憩いの場——清国留学生会館と女傑・秋瑾 第十四章 留学生の胃袋、そして知恵袋——神保町の書店街 >立ち読み 第十五章 辛亥革命の後背地——日本各地に孫文伝説
『満鉄の調査と研究 : その「神話」と実像』「フレーム・アップと「抵抗」—満鉄調査部事件」 中国関連の本(日) 2017年12月16日 0 「フレーム・アップと「抵抗」—満鉄調査部事件」は松村高夫が満鉄調査部事件に関してまとめたもの。『満鉄の調査と研究 : その「神話」と実像』所収。第八章。 さまざまな資料に基づいて満鉄調査部事件の実態を明らかにしようとするもの。示唆に富んでいます。 満鉄調査部事件とは、関東軍憲兵隊が、満鉄調査部の中で反国家的な陰謀が行われているとして多数の調査部員を検挙、起訴した事件のこと。起訴された人の中には執行猶予付きの懲役刑となった人もいます。長らく真相は不明とされてきましたが、最近様々な研究が発表されるようになりました。 中国で発見された新しい証言に基づいて、潜在的な動きがあったと判断する研究(『満鉄調査部事件の真相―新発見史料が語る「知の集団」の見果てぬ夢』など、)もいます。しかし、松村高夫は、そういった主張に反対します。そして、証言は強要されたものであり、事件それ自体をフレーム・アップとみなします。戦後の証言に関しても、何らかの形で軍部に抵抗を試みていたと信じたい、という心情によって影響を受けている可能性もある、とします。 証言の扱い方に関して考えさせられます。
竹内好「評伝 毛沢東(抄訳)」 中国関連の本(日) 2017年12月15日 0 竹内好「評伝 毛沢東(抄訳・第七・八章)」は1951年『中央公論』に発表。『竹内好セレクションII アジアへの/からのまなざし』収録。 竹内好からみた毛沢東が綴られています。 毛沢東の方法を無からの創造と竹内はみなして、純粋毛沢東,原始毛沢東というものを探り当てよう、とします。そして、井岡山における無所有者としての経験が根源にあるとします。さらに、敵は強大だが、我は不敗だという信念、敵の戦力を我の戦力に転化するという方法、そして、物質と精神双方にまたがる根拠地というものがあり、それが勝利を可能にするといいます。 自己改造に関しても、竹内好は適当とみなします。さらに、全体と部分の調和、独立と統一の弁証法といった論理が毛沢東を支えている、という論理も展開します。 極めて問題が多い毛沢東論。 竹内好は文学研究をしている人間にとっては、反面教師とするべき最適の例といえそうです。竹内好は文化大革命に肯定的な立場をとったため、のちに批判されましたが、毛沢東という人物を理想的に描きすぎたことがその背景にあると考えられます。 竹内好は文学、哲学の視点から毛沢東や中国をみようとして、論理を展開していきましたが、文学の立場だけではなく、社会学や経済学、法学の立場からも、中国を検討する、ということをしなければ見誤るのではないかと感じました。