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中国文学映画関連 備忘録

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6/3 張愛玲「心経」

6/3 張愛玲の「心経」(1943発表)は家族に関する小説。『中国現代文学珠玉選 小説3』収録。  周囲から完璧な一家とみなされている家庭が物語の舞台。20歳の娘は父親と惹かれあって近親相姦的な関係を築き、母親を家庭から抹殺します。そして、その関係を維持するため成長を拒否して少女として振る舞い、言い寄る男を全て足蹴にします。しかし、父親は、娘の成長が娘とのプラトニックな関係を破綻させることを予期したのか、娘に似た女性と付き合い、家族を捨てて去ります。最終的に、捨てられた母親と娘は改めて向き合います…
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5/28 ふるまいよしこ『中国新声代』

『中国新声代』(2010)は、日本のジャーナリストふるまいよしこによる当時の中国著名人に対するインタビューをまとめたもの。

登場するのは、王小峰(雑誌主筆/ブロガー)、李銀河(社会学者)、郎咸平(経済学者)、連岳(コラムニスト)、徐静蕾(女優/映画監督/雑誌発行人兼編集長)、芮成鋼(CCTVキャスター)、袁偉時(歴史学者)、孫大午(農村企業経営者)、梁文道(コラムニスト、文化人)、邱震海(国際問題研究家)、曹景行(時事評論家)、尊子(風刺漫画家)、梁家傑(〇七年香港特別行政区行政長官候補)、龍應台(作家)、林清發(北京台湾資本企業協会会長)、賈樟柯(映画監督)、胡戈(ウェブビデオクリエイター)、欧寧(文化プロデューサー)など。

中国社会に対して、発信を続けている人たちの言葉を切り取ったものになっています。

『第一章 社会――「公」から「個」の時代へ』では、中国の現状に対して、中国内部から声を上げている人たちのことがまとめられています。とくに印象に残ったのは、連岳に対するインタビュー。連岳はフリーのジャーナリストです。もともと『南方週末』の記者として『21世紀経済報道』の編集などに従事しながら離職。現在、フリージャーナリストになり、中国の市民運動を後押ししています。連岳は廈門市の化学工場建設に反対するデモが成功した理由を、単純な市民の勝利とは見ないで、背景には様々な共産党内部の分裂も絡んでいると分析しています。その現状分析の冷静さなどは非常に鋭いと感じました。

『第二章 出来事――国内に抱える不安、海外と高まる軋轢』では、中国と諸外国との関係に関して、さまざまな形で発言している人たちのことがまとめられています。『第三章 港台――「一国二制度」と経済、民主、アイデンティティ』では、中国と台湾、中国と香港の関係に関してさまざまな立場から発言している人たちのインタビューがまとめられています。個人的に印象に残っているのは尊子や龍應台へのインタビュー。中国に返還された香港で風刺漫画を描き続ける尊子、中国語を使って香港・台湾を自由に行き来して北京に行くことも望むところだという作家・龍應台。二人のような立ち位置を許すこと自体が、台湾や香港の意味を示しているのではないかと感じました。

『第四章 文化――変化続く時代、揺れ続けるスピリット』では、中国の文化の創生に関わっている人たちの声が集められています。個人的に印象に残ったのは、賈樟柯に対するインタビュー。賈樟柯が中国の映画界にどのような批判的意識を持っていて、どう行動しているのか、ということを述べた点は非常に興味深いです。賈樟柯は、国際的には、現在の中国映画界を代表するとなされている映画監督です。しかし、中国本土では、知名度が高いとは言えません。もともとデビュー作が国内の審査を経ないで海外で発表されたため中国で撮影禁止処分になり、中国以外の地域からの資金的援助を受けて作品発表を続けてきたためです。いま改めて、中国で賈樟柯が評価されるとしたらどういう意味を持つ のか、興味深いです。

各々のインタビューが非常に濃いです。インタビューをまとめたふるまいよしこさんは凄いと感じます。香港に14年、北京に13年半いたという経験は、なにものにも代えがたい貴重なものであり、それがあるからこそ、中国や台湾、香港の人たちから、考えや想いを引き出すことができるのだろうと考えました。

ちなみに、ふるまいさんの随時更新している辛辣なTwitterもけっこう面白いです。

インタビューを受けている人たちは、中国ではある程度知られているそうです。しかし、日本では全く知られていません。日本と中国の間に情報の断絶があることを感じさせます。ただ、日本側の中国理解の薄さのほうがさらに深刻ではないか、と感じます。中国では、日本の漫画やアニメ、ドラマが流行したので、一定数の若者はコナンやドラえもんを知っていて、ジャニーズやAKB48をはじめとした日本のアイドル・俳優も聞いたことがあるはずです。少なくとも表層的には日本を知っていて、具体的な日本人の顔を複数思い浮かべることができるのです。しかし、日本の若者が中国の文化に触れる機会はほぼなく、中国に対して具体的なイメージを抱きようがありません。イメージといえば、教科書の中 にあらわれる歴史上の中国や、ニュースの報じる「脅威」「野蛮」な中国だけです。そもそもふだん、中国に関して考える機会すらないかも知れません。

5/16柴静『中国メディアの現場は何を伝えようとしているか』

柴静『中国メディアの現場は何を伝えようとしているか』(《看見》)は、CCTVの看板キャスターとして鋭く深く社会問題に取り組んできた柴静が、中国の社会問題とそれに向き合う人々のことをどのように取材してきたかを自らまとめたノンフィクションです。2013年中国でベストセラー第一位になり、反響を呼んだそうです。日本では、2014年4月に一部の内容を抜粋する形で、翻訳が出版されました。日本語版にはインタビューも収録されており、柴静の人柄を窺い知ることができるようになっています。

取り上げられている話題は多岐にわたります。SARS、少年少女連続服毒事件、麻薬中毒者や同性愛者への迫害、ドメスティック・バイオレンス、開発と大気汚染、猫殺し映像をネットに流した人々、唐山大地震と日中戦争、幻の湖南トラ騒動、四川大地震、土地問題、教育ボランティアのドイツ人青年のはなし、若者の犯罪など。

翻訳者が記しているように、柴静のジャーナリストとしての経歴とも呼応しており、その成長の物語として読むこともできるようになっています。柴静がどれほど誠実に、さまざまな事件に巻き込まれている人たちと向き合おうとしてきたか、ということが伝わってきます。また、一人のジャーナリストとして、一貫して主体的な判断に基づいて行動しようとしてきたことがよく伝わってきます。

SARSの脅威のために北京が都市としての機能を停止する中、柴静は命の危険を冒してSARS報道を続けたため一躍有名になったそうです。そのことをまとめた部分からは当時の切迫感も伝わってきます。

とくに印象に残るのは、中国の環境問題に関して取り上げた章です。山西省出身だからこそ、石炭火力発電の乱立のために致命的なほどの環境破壊が進む山西省の問題に対して、取り組もうとしている点には心を打たれました。また、処置を誤れば国を揺るがしかねないともいわれる農村の土地問題にも切り込んでいる点も凄い、と感じました。中国のメディアは官製だからそこに真実はない、と一概にまとめることはできない、ということを強く感じます。

2015年のはじめ、柴静のことが日本のメディアでも取り上げられました。柴静が私費を投じて独自に作成したドキュメンタリー作品『穹頂之下(Under the Dome)』が中国本土で数億回も再生されて話題になり、政府による閲覧禁止の処置を受けたためです。

『穹頂之下(Under the Dome)』は、具体的な証言やデータに基づいて、中国の大気汚染の深刻さを指摘するものです。しかし、事実を列挙するだけではなく、同時に私たちには次世代に対して美しい世界を残す責任がある、という柴静のメッセージも含んでおり、共感を呼びます。日本の報道はしばしば中立性・客観性を重視しますが、『穹頂之下(Under the Dome)』を見ていると、そもそもジャーナリズムとは何か、報道は何を重視するべきかといったことを考えさせられます。