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中国文学映画関連 備忘録

5/16柴静『中国メディアの現場は何を伝えようとしているか』

柴静『中国メディアの現場は何を伝えようとしているか』(《看見》)は、CCTVの看板キャスターとして鋭く深く社会問題に取り組んできた柴静が、中国の社会問題とそれに向き合う人々のことをどのように取材してきたかを自らまとめたノンフィクションです。2013年中国でベストセラー第一位になり、反響を呼んだそうです。日本では、2014年4月に一部の内容を抜粋する形で、翻訳が出版されました。日本語版にはインタビューも収録されており、柴静の人柄を窺い知ることができるようになっています。

取り上げられている話題は多岐にわたります。SARS、少年少女連続服毒事件、麻薬中毒者や同性愛者への迫害、ドメスティック・バイオレンス、開発と大気汚染、猫殺し映像をネットに流した人々、唐山大地震と日中戦争、幻の湖南トラ騒動、四川大地震、土地問題、教育ボランティアのドイツ人青年のはなし、若者の犯罪など。

翻訳者が記しているように、柴静のジャーナリストとしての経歴とも呼応しており、その成長の物語として読むこともできるようになっています。柴静がどれほど誠実に、さまざまな事件に巻き込まれている人たちと向き合おうとしてきたか、ということが伝わってきます。また、一人のジャーナリストとして、一貫して主体的な判断に基づいて行動しようとしてきたことがよく伝わってきます。

SARSの脅威のために北京が都市としての機能を停止する中、柴静は命の危険を冒してSARS報道を続けたため一躍有名になったそうです。そのことをまとめた部分からは当時の切迫感も伝わってきます。

とくに印象に残るのは、中国の環境問題に関して取り上げた章です。山西省出身だからこそ、石炭火力発電の乱立のために致命的なほどの環境破壊が進む山西省の問題に対して、取り組もうとしている点には心を打たれました。また、処置を誤れば国を揺るがしかねないともいわれる農村の土地問題にも切り込んでいる点も凄い、と感じました。中国のメディアは官製だからそこに真実はない、と一概にまとめることはできない、ということを強く感じます。

2015年のはじめ、柴静のことが日本のメディアでも取り上げられました。柴静が私費を投じて独自に作成したドキュメンタリー作品『穹頂之下(Under the Dome)』が中国本土で数億回も再生されて話題になり、政府による閲覧禁止の処置を受けたためです。

『穹頂之下(Under the Dome)』は、具体的な証言やデータに基づいて、中国の大気汚染の深刻さを指摘するものです。しかし、事実を列挙するだけではなく、同時に私たちには次世代に対して美しい世界を残す責任がある、という柴静のメッセージも含んでおり、共感を呼びます。日本の報道はしばしば中立性・客観性を重視しますが、『穹頂之下(Under the Dome)』を見ていると、そもそもジャーナリズムとは何か、報道は何を重視するべきかといったことを考えさせられます。
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