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中国文学映画関連 備忘録

余华《温暖和百感交集的旅程》収録エッセイ3

《温暖和百感交集的旅程》は、余華のエッセイ集。
《读书》という雑誌の連載をまとめたものだそうです。

「山鲁佐德的故事」
『千一夜物語』に関して余華の読解が示されています。言及されるのは、第351夜など。細かい点が重大な結末に結びつく、その妙について。

その他、細かい点が重大な出来事を決定するということを描き出した人としてシェークスピア『ベニスの商人』、ステファン・ツヴァイクなどに言及。ツヴァイクの記述としてあげられる例は、オスマントルコが東ローマ帝国を滅ぼすことができたのは小さな門があいていたため、ナポレオンの滅亡を決定付けたのは命令を墨守した将軍グルーシーのため。


「三岛由纪夫的写作与生活」
三島由紀夫という人物の自害に関して言及しています。非常に意味深長なフレーズが多いです。たとえば、「創作と生活は、一人の作家にとって言えば、二重でなければならない」など。

文章の最後の部分は出色。「三島由紀夫は自殺の前、二つの事で完全に安心できなかった。一つは『豊饒の海』英訳版のアメリカ出版のこと、もう一つは自分の死が隠蔽されないかという心配だ。彼の自殺が引き起こす社会の反応への関心は、一部の作品を世に問うた後の反応への関心と同じであり、あるいは彼は後者に対してさらに心配していた。だから彼の最後の作品は『豊饒の海』ではなく、切腹自殺だった。生命の最後の時に、三島由紀夫の作品の中で憧れていた死と鮮血は、遂に立ち上がり、死と鮮血は三島由紀夫を叙述した。」

「内心之死」
心理描写とは何か、という問いに対する余華の答え。最も描くべき様々な感情が渦巻く時の心理は描写できない、という主張。

言及されるのは、アーネスト・ヘミングウェイ「白い象のような山並み」とアラン・ロブ=グリエ『嫉妬』の叙述。ヘミングウェイの剥き出しとグリエの淡々とした視線による描写。テーマはそれぞれ「堕胎」と暗示される「姦通」。

その後言及されるのは、フォークナー「Walsch?」とドストエフスキー『罪と罰』。二つの殺人の場面における殺人者の描写。そして、ドストエフスキーに通じるようなスタンダールの『赤と黒』の叙述に関して。
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