『中国共産党史の論争点』は、中国共産党中央党学校党史研究室教授の韓鋼が、中国共産党の党史のなかで問題とされている論点を整理した文章。
官方党史を疑う姿勢が保たされています。
・「文化大革命」の原因に関する問題・・・文化大革命がなぜ.どのような原因で起こったのか、という論点に関してさまざまな学説を紹介。過ちを糊塗するためにさらに過ちを重ねた、という主張など。著者は、毛沢東がどうして/どのように文革を発動したのか、毛沢東という要素を経て、どのように文革という形で中国の要素が発露したのか、という二つの観点から議論するべき、とまとめます。
・中国共産党第九回大会での政治報告の起草をめぐる問題・・・毛沢東と林彪の意向が一致していたはずの時期に、すでに毛沢東と林彪の間に軋轢が生じていたのでは、という点に関して。
・「第一号号令」の問題・・・林彪が毛沢東に事前に連絡せずソ連に備えて臨戦態勢を整えたことは、後に林彪の罪とされたが、本当に毛沢東に通達はなかったのか、という論点に関して。
・国家主席設置と九期二中全会の問題・・・林彪が国家主席設置によって、毛沢東に反抗しようとした、という通説に対する反論など。
・「九一三事件」の問題・・・林彪の乗った飛行機が墜落した事件に関して。原因は何か、毛沢東、周恩来がどう対応したのかといった点に関する様々な学説のまとめ。
・「四人組」粉砕の問題・・・華国鋒を始めとした人々が「四人組」を打破した時、誰がどのような形で協力したのか、という点に関して、様々な学説をまとめたもの。
・中ソ関係の問題・・・中ソ関係が蜜月関係から、きわめて険悪な関係になっていくまでの経過を研究した資料に関するまとめ。たとえば、指導者の感情に注目して、スターリンの死後、毛沢東とフルシチョフは対等になったと感じたため軋轢が生じた、という主張など。
その後に、辻康吾による「第Ⅱ部 解説 中国における歴史と権力」が収録されています。
中国では、権力が、歴史を正当性の根拠として利用してきたたため、実証的な歴史研究が妨げられてきました。そして、「官方歴史学」が、毛沢東の神格化を筆頭としてさまざまな歴史の歪曲を行ってきました。しかし、文化大革命の後、「新時期歴史学」が立ち上がり、共産党がつくりだした歴史を相対化する立場から歴史を研究するようになりました。しかし、他にも、両岸関係、日中関係に関する歴史をはじめとて、まだ残された問題がある、と著者は指摘します。
著者が感じた、「現代化」と「近代化」の差異への指摘は興味深いです。