『中国現代文学珠玉選[小説1]』は、中国現代の小説家による短編小説の翻訳。15編を収録。
沈従文「夫」
農村出身の男女に物語。町に出て船で男に侍り金を稼ぐ妻と、農村から妻に会いに来る夫。夫は、以前とは変わってしまった妻に戸惑い、その関係に苦慮します。妻が様々な男を相手にするので、夫はふてくされて最終的には大泣きします。紆余曲折はありますが、二人は最終的に農村に帰ることを選択します。
様々な対比が印象的です。農村は純朴かつ善、都市は猥雑かつ悪という図式になっているようです。
茅盾「林商店」
個人商店を開いている林商店が潰れる物語。林氏、林夫人の間には娘が一人いて三人で真面目に商売に励んでいます。しかし、上海で巻き起こる戦争や、賄賂や娘との婚姻を求める局長の抑圧によって資金繰りに苦しみ、商売は立ち行かなくなります。そして、最終的に夜逃げすることになります。
茅盾は、林商店の破産という社会の一場面を切り取ることにより、その背景にある様々な出来事や問題を描き出します。物語のラストでは、林商店が破産することにより、出資していたほかの貧しい人にも被害が及ぶことが描き出されています。その描写が非常に秀逸です。
また、物語自体は非常に読みやすく、理解が容易です。
巴金「月夜」
阿李の船は、夜中、町へ向かう人たちを運びます。客たちはみな到着しますが、普段遅刻しない根生があらわれません。様子のおかしい根生の妻があらわれます。阿李は妻を追っていき、問い詰めます。妻は、根生が地域の有力者に反逆したため捕まったに違いないといいます。皆は半信半疑でしたが、ほどなくして、川に銃殺されたらしい根生の死体が浮かび上がります。
物語が繰り広げられるのは、満月の夜、睡蓮の花が満ちる川辺。情景が非常に思い浮かべやすいです。
3篇は、ともに抑圧される善良な人々の運命が、物語の主題になっています。