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中国文学映画関連 備忘録

大東和重『郁達夫と大正文学―“自己表現”から“自己実現”の時代へ』

大東和重『郁達夫と大正文学―“自己表現”から“自己実現”の時代へ』は、日本に長く滞在した中国の小説家・郁達夫が日本文学からどのように影響を受けたかを考察した一冊。

郁達夫という人がどのような日本文学を読み、どのように影響を受けたかということだけではなく、郁達夫の読書遍歴を通して、大正文学の特徴を明らかにしよう、という野心的なたくらみがなされています。著者が大正文学の特徴としてあげるのは、〈自己実現〉。

作者の身辺の出来事を題材にするような、告白を特徴とする文学が非常に流行して、それが郁達夫に決定的な影響を与えたという指摘には説得力があります。

文学研究は、広範な読書によって支えられている、ということがよくわかります。

当時、小説家は、今でいうところのアイドル・芸人だったのかもしれない、と読みながら感じました。だからこそ、小説はある意味ゴシップとして消費されたのではないかと思います。


序 章 郁達夫と大正文学――第一次大戦後の文学と〈自己実現〉
第I部 〈自己表現〉の時代の中で
第1章 〈自己表現〉の時代――『沈淪』と五四新文化運動後文学空間の再編成
第2章 日本留学時代の読書体験――学校体験・留学生活・日本語・外国文学
第II部 日露戦後から第一次大戦後へ
第3章 田山花袋の受容――『蒲団』と『沈淪』
第4章 志賀直哉の受容――自伝的文学とシンセリティ
第III部 〈自己実現〉の時代へ
第5章 大正教養主義の受容――自我をめぐる思考の脈絡
第6章 オスカー・ワイルドの受容――唯美主義と個人主義
第7章 大正の自伝的恋愛小説の受容――『懺悔録』・『受難者』・『新生』
終 章 比較文学と文学史研究
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