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中国文学映画関連 備忘録

京都精華大学出版会『リベラリズムの苦悶 イマニュエル・ウォーラーステインが語る混沌の未来』

『リベラリズムの苦悶 イマニュエル・ウォーラーステインが語る混沌の未来』は、京都精華大学開学25周年記念事業として行われたイマニュエル・ウォーラーステインの1993.12.7の講演とそれに付随する質疑応答、座談会などをまとめたもの。

鶴見俊介によるアメリカ哲学史の紹介。「リベラリズムの苦悶 進歩への希望を何につなぐか」と題して行われたウォーラーステインの講演と、質疑応答がそれに続きます。司会は武藤一羊、コメンテーターはいいだもも。そのあとに、「『混沌』の時代の社会科学」と題する座談会が続きます。座談会はさまざまな領域の研究者たち。本田健吉、阪本靖朗、若森章孝、塩沢由典、柴谷篤弘、司会は小野暸。

鶴見俊介の部分では、経歴とUnthinkという言葉に関する考察がつづられていて興味深いです。

ウォーラーステインの講演は主に、1989を境にして、それまで覇権を握ってきたリベラリズムの権威が失墜したという内容です。そして、システムと反システムの闘争は続くはずであり、その中で、私たちは反システムの側に立って相対的に平等主義的で完全な民主的な史的システムを望み、暗闇の中で模索するべき、と呼びかけます。

ただリベラリズムという用語の使い方には注意が必要かと思われます。ウォーラーステインの講演の中では、リベラリズムは左右双方の妥協を導き出す考え方であり、基本的にはエリート主義、先進国の一部の人たちの利益のみを結局として代表する考え方、とされています。

ウォーラーステインはマルクス主義を批判的に継承した、とされているそうです。実際、具体的な現実とのかかわりから思考を深めるという点はマルクスと共通しています。
座談会の内容も四分五裂の内容となっていて、興味深いです。とくにウォーラーステインに対する批判に関して考えさせられました。結局あいまいで答えを出していない、という指摘、あるいはマルクスと同じく学問というより、イデオロギーに陥っているという指摘など。
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