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中国文学映画関連 備忘録

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宮尾正樹・監修『紙の上の月 - 中国の地下文学』収録作品3

『紙の上の月 - 中国の地下文学』は中国でもともと地下文学とした発表された短編小説を収録したもの。


「飢餓」 《饥饿》尹明1979・大西陽子翻訳
劉斌という気弱そうな青年の物語。文革の頃、有害な書物は禁じられていました。劉斌の姉は読書好きでしたが、言いがかりをつけられて迫害されています。劉斌は、ある中年男性からジャック・ロンドン『生命の愛』をもらい、喜びます。その後、学校の図書館の本が次々と破棄されていることを知り、本を救おうとして深夜忍び込み、持ち出します。その後、正直でありたいと思い直して、その罪を白状します。結果として、拷問を受けて正気を失います。そして、紅衛兵となって家に舞い戻ってきます。

 「多国籍アパート」《人堆人》劉索拉1990・西野由希子翻訳
ロンドンのアパートに住んでいる私の物語。下の部屋に引っ越してきた人が大音響で謎の音楽をかけるため、私と周囲の人たちの交流が始まります。

「悲しき六月」 《如泣的六月》葉曙明1990・宮尾正樹翻訳
さまざまな断片がかき集められたかのような小説。要約が困難です。非常に中国らしさを感じさせない小説。

 「瞬間」 《瞬间》高行健1991・宮尾正樹翻訳
さまざまな断片がかき集められたかのような小説。要約が困難です。

高行健の書いているような小説に関して、分析することはなかなかに難しそうだと感じます。
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刘心武《班主任》

刘心武《班主任》は、もともと《人民文学》1977年第11期に掲載された短編小説。傷痕文学の代表作。文化大革命が青少年の内面に与えたゆがみを明らかにする小説とされています。

《中国新文学大系(1976-2000)》収録されているものを読みました。

 《班主任》は、日本語では「クラス担任」という意味。


主な登場人物は、北京にある中学校三年のクラス担任をしている張俊石、クラスの生徒である支部書記・謝惠敏と、宣伝委員の石紅、チンピラ少年の宋宝琦の4人。公安局から釈放された宋宝琦が、張俊石のクラスに転入してくることになり、波紋が広がります。張俊石は周囲の反対を受けても受け入れようとして生徒たちに協力してもらおうとします。しかし、教養のある教師・張俊石と、党の言うことをただ信じて無知な謝惠敏の間には、溝があります。支部書記の謝惠敏も、チンピラ少年の宋宝琦も、海外文学「あぶ」を全く理解することができません。張俊石は、四人組のもたらした害悪によって、無知な若者が生み出されていると認識します。さらに、文学の中で育ってきた石紅が、魯迅訳による浮浪児更生を描いた海外の小説「時計」を評価したため、謝惠敏と対立します。張俊石は石紅を評価したうえで、謝惠敏に言うべきことを言おうと決意します。

小説の構造自体は明快です。

四人組に対する糾弾などが随所に含まれていて、ある考え方を読者に対して強く推薦する内容となっています。小説の中に、著者自身の意見が直接書き込まれているかのような印象を受けます。

「当時の歴史状況下では大きな意味を持ったが、現在の視点から評価すると小説としては瑕疵がある」とみなす中国の研究者たちの評論も理解できます。

宮尾正樹・監修『紙の上の月 - 中国の地下文学』収録作品2

『紙の上の月 - 中国の地下文学』は中国でもともと地下文学とした発表された短編小説を収録したもの。
「紙の上の月」《稿纸上的月亮》北島1980・西野由希子翻訳
小説家・丁玉龍の物語。丁玉龍のもとに、小説家になりたいと望む若い娘が現れますが、丁玉龍は小説家にならない方が良いと忠告します。丁玉龍の周囲には、妻の娟、息子の冬冬、友人の康明、出版を助けるじいさん、ばあさんなどがいて、生活は営まれていきます。
「僕たちの夏」《没有太阳的角落》史鉄生1980・栗山千香子
身体障碍者の僕、鉄子、克倹は、日々、官女を描いています。三人は世間から差別されていることをよく理解していますが耐え抜いています。その三人のもとに王雪という少女のように純粋な女性があらわれます。三人と王雪はいっしょに映画を見に行きます。しかし、王雪は正規の仕事を手に入れて去っていくことになります。

「雪 -遠い風景」《远方 -雪》 萬之1980・阪本ちづみ
私と妹の物語。私と妻の間にはまもなく子どもが生まれようとしています。しかし、文革の頃に家出して農村に嫁いだ妹・雪児にもまもなく子どもが生まれるという知らせが届きます。母親は妹を心配して、私とともに農村に向かいます。農村は雪に包まれていました。私と母は途方にくれますが、寧という医師にたまたま再開して、雪児のもとに向かうことができます。雪児は難産であり、赤子は死にます。そして、雪児も危篤状態に陥ります。

宮尾正樹・監修『紙の上の月 - 中国の地下文学』収録作品1

『紙の上の月 - 中国の地下文学』は中国でもともと地下文学とした発表された短編小説を収録したもの。

主に北島の作品など。

「廃墟」《在废墟上》北島1978・栗山千香子翻訳
文化大革命の中で、反動分子として弾劾されることになった王琦という教授の物語。娘は中国共産主義青年団に入って父のもとを去りました。教授にはすでに何も残されていません。教授は廃墟に赴き、ロープで首をつって自殺しようと思いますが、父を殺されたという少女と偶然出会い、少女の消えた方に向かって歩き出します。

「父という他人」《归来的陌生人》北島1979・大西陽子翻訳
蘭蘭という娘の視点から叙述された物語。蘭蘭の父親は演劇などに携わっていた文化人らしく、文化大革命の間激しく糾弾されて家を去っていました。その父親が、ぼろぼろになって、久しぶりに帰ってくることになります。しかし、蘭蘭は小さい頃、母親の言葉を正直に受け取って父親は無実だと大人に言ってまわったため、酷い目に遭いました。だから、とくに父親に対して冷淡です。しかし、蘭蘭と父親は公園に散歩に行った時、和解します。

「旋律」《旋律》北島1980阪本ちづみ
尹潔という女性の視点から叙述された物語。尹潔は大志という男性と結婚しますが、毎日のように激しい喧嘩を繰り返しています。しかし、住宅から出ていくわけにいかないので離婚もできません。尹潔は、かつての男友達もまた結婚相手と折り合いをつけることができず、苦しんでいることを知ります。その後、尹潔は仲良く振る舞う老夫婦と会い、それが演技だと思いますが、最終的にその老人との会話で心をうたれて涙を流します。そして、どこかから聞こえてきたバイオリンを心に留めます。


文化大革命に関する小説が多いです。文化大革命が人の心にどのような衝撃を与えたのか、ということを描き出しています。その被害は一過性のものではなく、あとにまで尾を引くものなのだろう、と考えさせられました。



余華《偶然事件》

《偶然事件》は余華の小説。

非常に不思議な小説。手紙の往来にそって物語が進んでいきます。

あるバーで、ある男性が、ある男性を刺殺します。陳河と江飄はその場に偶然居合わせただけでした。しかし、警察が二人の身分証明書を取り違えて返却したため、二人はお互いの名前と住所を知ります。そして、陳河は、江飄に対して身分証明書を取り替えようと提案するため手紙を書き、文通か始まります。

陳河は妻をほかの男性に誘惑されている男性のようです。一方、江飄は数多くの女性を誘惑している男性のようです。

二人は文通の中で、事件の真相を探ろうとします。陳河は、まるで自分の境遇を反映しているかのように、殺人事件は妻を誘惑された男性が起こしたものだと断定します。一方、江飄は、その意見に対して説得力がないと最初は否定します。しかし、徐々に江飄も陳河の推理に沿ってはなしをすすめるようになり、最終的に二人は「妻を誘惑された男性が、女性を誘惑することに長けていることを自慢する男性を刺殺した事件だ」と結論付けます。

その後、陳河と江飄は実際に顔を合わせて出会います。陳河は江飄を刺殺しました。