那須賢一『中国の選択 鄧小平外交と「四つの近代化」』2 中国関連の本(日) 2017年11月18日 0 那須賢一『中国の選択 鄧小平外交と「四つの近代化」』は、日本人による中国政治の分析。1981年に出版された本であり、当時の政治状況が色濃く反映されていて興味深いです。限られた公開の情報やその端々(たとえば、言葉の順序)から、共産党内部の状況を推測する手法には頭が下がります。 「3 「四つの近代化」と西側大資本」 文革終了後、中国が当初推進していた10ヶ年計画の背景、内容、その特徴などをまとめています。同時に、西側大資本、とくにアメリカが中国の改革開放に乗じて中国の取り込みをはかっていると著者は分析します。著者は、10ヶ年計画には中国の覇権主義が見え隠れするとして否定的です。 「4 10ヵ年計画の挫折と経済"調整"政策」 10ヵ年計画は、現実を無視して経済成長を図ろうとする点で、大躍進政策と同じであり、結果として頓挫したと著者は分析します。重工業の偏重、軽工業と農業の軽視、経済成長率だけの重視、国民生活の軽視といった点が特徴だと著者はまとめます。そして、自主権の拡大がもたらす良い点と悪い点にもふれています。 「5 転機に立つ中国の選択」 中国がこれからどのように進んでいくのかを著者が推測しています。あくまで社会主義国家として、穏健な経済政策をとっていくという道を取ることが望ましいとしています。ただ反毛主義的傾向が強く出ている点には批判的です。 PR
溝口雄三、伊東貴之、村田雄二郎『中国という視座』 中国関連の本(日) 2017年11月16日 0 溝口雄三、伊東貴之、村田雄二郎『中国という視座』は、三人の学者が儒教という観点から中国を考察したもの。 「3 中国近代革命と儒教社会の反転(儒教社会の転換;中国革命における国家と社会)」では新末、民国時期、どのように、家父長制を根本に据える儒教、礼治システムが崩壊していったのかということをまとめています。執筆者は村田雄二郎。 儒教社会の転換でふれられているのは、儒教の家父長制、それと対を成すものとしての白蓮教の世界観、『紅楼夢』、『鏡花縁』からみる礼治システムのゆらぎ、太平天国の纏足禁止、女性の同性愛的関係と自殺、魯迅の『祝福』にもとづく考察など。 中国革命における国家と社会でふれられているのは、郷紳のさまざまな変化(「国家退縮」に結び付くような国家に縛られないブローカー的な存在への変貌)、宗族結合の弱まり、共産党の登場、礼治システムを根本から覆した土地改革と婚姻法の制定、「大いなる父」毛沢東の登場、家父長制の形を変えた再現?など。 もともと中国は、行政機構が隅々まで行きとどくという仕組みはなく、「小さな国家」だったという指摘は興味深いです。 大きくクローズアップされるのは梁漱溟です。梁漱溟による郷村建設運動が毛沢東の土地改革路線とはまっこうから対立する、という示唆には、考えさせられました。仮に梁漱溟の提唱したような形で中国の国家建設が進んでいったとすれば(それは諸々の要因に実現しえないものかも知れませんが)どうなっていたのだろうかと考えさせられました。
那須賢一『中国の選択 鄧小平外交と「四つの近代化」』 中国関連の本(日) 2017年11月14日 0 那須賢一『中国の選択 鄧小平外交と「四つの近代化」』は、日本人による中国政治の分析。1981年に出版された本であり、当時の政治状況が色濃く反映されていて興味深いです。限られた公開の情報やその端々(たとえば、言葉の順序)から、共産党内部の状況を推測する手法には頭が下がります。 また、那須賢一さん自身の政治的立場も文章全体ににじみ出ていて考えさせられます。著者は、基本的には社会主義には賛同していて、なおかつ中国が親米路線をとることは、資本主義諸国に取り込まれかねない望ましくない政策とみているようです。 「1 華=鄧体制下の政治路線と指導者の変遷」 中国の政治体制内部でどのような変化が起こっているのか、そして、内政にどのような変化が生じたのかを分析しています。さまざまな勢力による重要ポストの配分などから、どのように華国鋒から鄧小平へと権力が移行していったのか推測していく部分などは興味深いです。 「2 毛沢東以後の中国外交と覇権主義」 中国政府がとっている反ソ親米路線と、覇権主義的外交政策(ベトナム侵攻など)の原因に対する分析。著者は、その姿勢を、資本主義諸国に取り込まれるものとして批判的に分析しています。 2017年時点から振り返って検討した場合、当時の中国の政策はどうだったのか、など考えさせられました。
『中国文学雑談―吉川幸次郎対談集』2 中国関連の本(日) 2017年11月14日 0 『中国文学雑談―吉川幸次郎対談集』に収録されているのは、吉川幸次郎と井上靖、中野重治、桑原武夫、石川淳、石田英一郎、湯川秀樹との対談。 吉川幸次郎と中野重治の対談は、話がかみ合っているのかかみ合っていないのか分からなくて面白かったです。基本的には、中野重治が喋りたいことを好き放題に喋り、吉川幸次郎が合いの手をいれるといった調子。ただ、中野重治の喋っている内容は、しばしばなんともいえないかんじ。 ただ、軍人に賜りたる勅諭はすっと入ってくるのに、教育勅語はすっと入ってこない、と中野重治が語るのは興味深いと感じました。 杜甫とプーシキンは偉大だという話になって面白いと感じました。そこからゲーテにまではなしが及ぶのがさすがとしかいいようがないです。 改めて吉川幸次郎が荻生徂徠を重視しているのがよくわかりました。 湯川秀樹は、キリスト教や哲学の問題なども含めながら、ヨーロッパにおいて科学が生まれた背景まで滔々と語っています。凄い人だと改めて感じました。
人民中国雑誌社『わが青春の日本』 中国関連の本(日) 2017年11月12日 0 人民中国雑誌社『わが青春の日本』は、戦前日本に来た中国人の方たちが記した回想をまとめたもの。 日中関係を考える上で参考になりました。様々な歴史的背景があるとしても、中国の知日派の日本に対する理解は非常に高く、それにこたえられるだけの努力を日本側がしてきたのかと考えさせられました。 田舎で混浴の温泉に遭遇したことが驚きのエピソードとしてよくあがっていることが面白いです。その他、特高もしばしばはなしのなかに登場します。 廖承志「私の童年」・・・中国注水の知日派の筆頭格 廖夢醒「下駄の鼻緒」 王学文「河上肇先生に師事して」・・・日本の左翼と中国青年たちのつながり 蘇歩青「わが師わが友」 蔡邦華「鹿児島高農での青年時代」 許幸之「東京でかいた一枚の絵」 茅盾「亡命時代の事ども」・・・茅盾日本滞在は有名な話 司徒慧敏「五人の学友たち」 鄭啓棟「研究室での青春」 張友漁「一九三〇年代の留学生活」 韓幽桐「東大法学部研究室での五年間」 甄華「大野さんとその家族たち」 林林「ワセダの森でハイネに酔う」 張香山「文学にあけくれた日び」 杜宣「戦争前夜の青春」 趙安博「私の一高時代」 蕭向前「下宿のおじさん」 孫平化「本屋街がなつかしい」 鄧友梅「徳山で"労工"となって」・・・しばしば『北京文学』にもあらわれる人物