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中国文学映画関連 備忘録

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ハ・ジン『すばらしい墜落』

ハ・ジンは1956年生まれの中国系アメリカ人。中国で生まれ育ちました。文化大革命の強烈な影響を受けた世代です。天安門事件が起こった時にはアメリカに留学しており、事件をきっかけにして移住しました。その後、英語で創作を続けており、多くの小説を発表しているそうです。

『すばらしい墜落』はハ・ジンの執筆した短編小説集。立石光子による翻訳。

主に、フラッシングで暮らす在米中国人の人たちの生活が描かれています。どの短編も非常に心を動かされる内容です。

個人的に興味深いと感じたのは、「英文科教授」。アメリカの大学で働くため、研究業績、学生指導、教務に関する資料などを提出した助教の物語。しかし、提出書類のなかのある英単語を間違えていたことに気付いてしまい、長期にわたって苦悩することになります。

「すばらしい墜落」も印象に残りました。アメリカの寺で不当な扱いを受けて自殺しようとした僧侶の物語。しかし、自殺が大々的に報道されたことによって、注目されて、救われることになります。

物語に登場する人たちの状況自体は決して楽観視できるものではありません。中国からアメリカに移住した老夫婦が孫たちに蔑まれる物語や、逆に中国からアメリカに半年間訪れた母親によって家庭が崩壊寸前になる男性の物語など、状況は深刻です。ただ、希望がないわけではありません。辛い立場にある人に対する著者の温かい視点などが特徴的です。

中国で生まれ育ち、中国語を母語としながら英語で小説を執筆している、という点は本当に驚異的です。ハ・ジンの作品をさらに読んでみたい、と思いました。今後、できたら英語の原文にも触れてみたいです。

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ジークフリート・レンツ『黙祷の時間』

ジークフリート・レンツは、ドイツの小説家。1926年に生まれて2014年に亡くなりました。代表作は、『国語の時間』(1968)など。

『黙祷の時間』は、レンツが2008年に発表した小説。松永美穂による翻訳。中国語でいえば「师生恋」(教師と生徒の恋愛)を扱っています。

物語は、英語教師シュテラ・ペーターゼンの追悼式の場面から始まります。父親の防波堤作りをよく手伝い、学級委員長もしている男子学生クリスティアンは、追悼式の中で、恋心を抱いていた年上のシュテラに対する思いを再確認していきます。二人は互いに好感を持っていました。しかし、二人の関係は最後まで曖昧でした。クリスティアンはともに暮らすことを望んで大人になろうとしますが、シュテラは教師として振る舞い続けました。最終的にシュテラは海の事故で重傷を負い、入院後亡くなりました。しかし、クリスティアンは思いが強いため、追悼式で表立って発言することは結局できず、沈黙を貫きます。

海に関する風景の描写が細密なので、非常に印象に残りました。「ぼくたちは岩礁に沿って進んだ。砂州が見えてくると、海鳥、特にカモメたちが雲のように一斉に舞い上がり、白い吹雪のような風景を演出した」(p.45)など。もっと他に良い表現があったように思います。

また、女性教師が最近愛読している作家としてフォークナーをあげる点、愛煙家の点なども印象的でした。

余華がエッセイで『国語の時間』に関する思い出を綴っていたので、レンツの作品を改めて手に取りました。『国語の時間』も読まなければ、と思います。以前、『遺失物管理所』を読みましたが今は完全に忘れてしまったので再読したいです。

カフカ『流刑地にて』

『流刑地にて』(白水社)は、『判決』『流刑地にて』『観察』『火夫』を収録。


『判決』
若い商人ゲオルグ・ベンデマンはペテルブルクにいる友人に対して、自分が婚約したことを伝えることを決意します。そして、それを父親に報告したら、論争になり、理解しがたい言葉の応酬が開始されます。ゲオルグは最終的に橋から飛び降ります。


『流刑地にて』
旅人がたまたま死刑執行に招かれます。死刑執行人は言葉を尽くして、十二時間かけて機械で行う残虐な死刑をほめますが、旅人は否定します。すると死刑執行人は諦めて自分を死刑にします。しかし、機械が壊れて、死刑はすぐに終わり、残虐な殺人となります。旅人は去っていきます。


『観察』
詩的で断片的な文章が集められています。


『火夫』
長編『失踪者』の第一章。カールは女中を妊娠させてしまってドイツからアメリカに送られます。船の中で不正を訴える火夫と出会います。そして、船長への申し開きの時、火夫の弁護を行います。しかし、カールはその場で伯父の上院議員と出会い、ボートでともに出発することになります。火夫の弁護は途中で終わります。


久しぶりにカフカの小説を読みましたが、相変わらず面白いと感じます。『判決』のなかの不可解な会話が始まる部分、あとからあらわれる文章がよく前段の文章を否定する点など印象に残ります。

        
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